2023年:454例の乳がん手術実績
乳がん診療の実績
多くの乳がん患者さんに来院していただいています。
2023年は454例の乳がん手術を行いました。9年前に三和病院が開院した時は200くらいだったので、倍以上に増えたことになります。この手術数は、千葉県でもトップクラスです。私が2003年に新八柱台病院で乳腺外来を開設してから約20年。開設した2003年はゼロ、2004年は年間30という数から始まって今では400越え。今までの地道な診療が大きく花開いたと思うと感慨一入です。もちろん私一人で成し得たことではなく、スタッフの大きな力のおかげです。
乳がん手術症例の推移
乳房温存率(乳房を残す手術を行なった割合)は2014年までは約80%と高い水準でしたが、乳房1次再建(乳房全摘と同時に乳房再建を行う)の需要が急増するとともに温存率も低くなり、2019年の乳房温存率は60%、2020年は50%、2021年は54%、2022年は50%、2023年は48.5%と低くなってきています。
乳房全摘となって乳房を喪失してしまう方でも、全く同じとはいきませんが、また乳房を取り戻すことができるようになっています。
腫瘍の広がりや大きさなどによって乳房全摘をしなければならない方の約半数に乳房再建を行っています。最高齢では80歳の方に1次再建を行い、あらためて年齢は関係ないのだと感じます。
最近では、全摘後に乳房再建をせずにそのままでいること(Going flat)も注目を集めています。
アメリカからの報告(Ann Surg Oncol 2021)では、Going flatとしている理由として、回復の速さを望むこと、異物を入れることを避けたいというのがトップ2でした。
満足度がとても高かった要因は、手術前に専門医から手術のオプションに関して適切な情報が得られたこと、乳癌手術のスペシャリストによる手術が受けられたことでした。
乳房再建をすることが必ずしもよいというわけではなく、患者さんの気持ち、ニーズに応えるよう術前のより丁寧な説明が必要だとあらためて感じました。
当院の乳房温存手術は、特殊な道具を使って内視鏡手術と同等の乳がん手術方法を導入しており、乳がんの根治性を損なうことなく、より美容面で優れた治療が可能となります。
手術前の患者さんには、手術を受けた患者さんの乳房の写真をご覧頂いています。大病院でもセンター病院でもない病床数50の当院が400人を超える乳がん患者さんの手術ができるのは、有り難いことに患者さんの口コミによるところが大きいのです。
その期待に応えられるよう地域の乳腺センターとしての役割を果たし、乳がんの啓蒙についても当院から発信しつづけていきたいと考えています。
治療について
三和病院の乳がん治療について『8つの特徴』をご紹介します。
01. 美容面も重視した乳がん手術
乳輪部切開のみで特殊な道具を用いて乳房温存手術を行なっています。
乳輪と白い皮膚との境目に沿って皮膚を切開するため、傷跡が目立たず、乳房の変形もより軽度となるため患者さんからもとても好評です。
特殊な道具とライティングを駆使することによって非常に短時間で内視鏡手術と同じような手術が可能となりました。しかし、全員が対象となるわけではなく、しこりが皮膚に非常に近かったり、皮膚が凹んでいたり、乳輪が非常に小さかったりという場合は別な方法で乳房温存手術を行なうこととなります。
現在では、乳房温存手術のほとんどが乳輪部切開法です。
当然、手術後の乳房の形というのは患者さんのその後の心理面にとても大きな影響を与えます。
オンコプラスティックサージェリー(オンコ=癌、プラスティック=形成・美容、サージェリー=手術)といって、今では美容面を重視しながら癌を治す時代なのです。「癌を治すのだから見た目なんてどうでもいい」と自分に言い聞かせなくてもいいのです。
02. 乳房再建・乳頭再建・乳輪再建
乳房再建
2013年に乳房再建のインプラント(シリコン)が保険適応となってから乳房を全摘して同時に乳房再建する方法(乳房一次再建)が急増してきました。
ところが、2019年7月にBIA-ALCLという乳房インプラントを入れた方に発症するリンパ腫が報告されてアラガン社の組織拡張器とインプラントが自主回収となってしまうということがおきました。BIA-ALCLはその発生頻度が0.03%ととても低く、適切な対応で治る病気です。今ではその発生頻度のほとんどない製品がでていて、より安全性が高くなっています。
当院では、開院してこの8年間に495例の方に乳房一次再建を行いました。乳房全摘の方の約半数です。
その方法は、乳房全摘と同時にティッシュ・エキスパンダーという生理食塩水の袋を胸の筋肉の裏側に挿入し、少しずつ生理食塩水を注入して皮膚を伸ばして乳房に似た膨らみを作っていきます。ある程度膨らんだところで、袋をインプラントあるいは自家組織に置き換えます。
当院では、90%以上の方がインプラントによる再建です。
無理に温存手術をしなくても乳がんは取りきれ、ほとんどの場合、放射線治療の必要なく、美容的にも保たれるという利点があります。
70歳代の比較的高齢の患者さんも再建を希望する方が増えています。
乳頭・乳輪再建
シリコンに入れ替えてから数か月後に乳頭の再建も可能となります。自費(約6万円)となってしまいますが、タトゥー(刺青法)による乳輪形成も可能です。
人工物によらない自家組織(腹部または背中の筋肉)を使った乳房再建も増えてきています。詳しくは形成外科外来にお問い合わせください。
03. 術前化学療法
手術の前に抗がん剤治療を行なってしこりを小さくしてから手術をする術前化学療法を積極的に行なっております。
乳房温存療法が困難な患者さんでも温存術が可能となり、術前化学療法をやらなかったとしたら温存率が47.5%となるところが、82.5%にまでになりました。つまり、最初に手術をしていたら乳房全摘をせざるを得ない方でも術前化学療法を行うことで、乳房温存療法が可能となることが多いということです。
投与方法や投与する薬剤も変わってきており、さらに高い効果が期待できます。
抗がん剤治療によって、必ずしもがんが同心円状に縮小するとは限らないためこうかがあった方全員に温存療法ができるわけではありません(図参照)。
画像診断で温存可能かどうかをよく見極める必要があります。この他にも術前化学療法のメリットは多くあり、適合する患者さんにはお勧めしたいと思います。
最近では、化学療法によって完全に癌がわずかでも残った場合、そのあと治療を追加することで再発率を低くできるというデータがでており、乳癌のタイプによっては、温存手術が可能になるという以外にも術前化学療法のメリットがあります。
04. センチネルリンパ節生検
がん(緑色)が最初に転移するリンパ節(青色)をセンチネルリンパ節といいます。
色素やアイソトープを使うことによって小さな切開でそのリンパ節を摘出して転移があるかないかを調べます。
センチネルリンパ節には転移がなければ、脇の下のリンパ節郭清は必要ないといわれています。これによって不必要な腋窩リンパ節郭清を避けることができ、腕の後遺症もほとんどなくなります。
今まではセンチネルリンパ節に転移があれば腋窩リンパ節郭清を行っていましたが、最近の研究では、わずかな転移であれば腋窩リンパ節郭清はしなくてもよいというデータがでています。これには適切な術後療法と乳房照射が必要です。
05. 外来化学療法
抗がん剤や抗体療法製剤による化学療法を受けることになった患者さんに専用チェア(あるいは専用ベッド)を用意し、医師-看護師-専任薬剤師の連携のもと治療を行っていきます。
安全キャビネットを用いた薬剤の無菌操作、複数による薬剤チェック、きめ細かな副作用対策などで安心して受けていただけるようにしております。静かな専用化学療法室にて治療をお受けいただけます。
当院では、治療が長期になる化学療法患者さんに対して、積極的に皮下埋め込み式ポートの造設を行っています。
局所麻酔で鎖骨の下の皮膚の中にポートを埋め込んで、先端のカテーテルを心臓近くの血管まで誘導しておきます。
ポートポートを造設すれば、採血や点滴、造影CTなどはポートから行えますし、化学療法による血管炎・血管障害を回避できます。また、抗がん剤点滴中も両手を離してリラックスして受けることができます。
2016年4月から2022年12月までに564人の方にポート造設を行いました。
看護部で行ったアンケート調査によると、ポート造設の満足度は、「良かった」が78.5%、「何とも言えない」20.8%とほとんどの患者さんが満足している結果でした。
06. 乳癌遺伝外来
当院では、2017年9月より乳癌遺伝相談外来を開始しました。
乳癌の患者さんの約10%が遺伝性乳癌卵巣癌症候群と言われています。乳癌や卵巣癌になりやすい遺伝子変異というものがあり、それは親から子へ受け継がれます。若年で乳癌を発症した、家系内に乳癌卵巣癌を発症した人が複数いる、両側乳癌または同じ側の乳癌を複数回発症した、などが特徴として挙げられますが、それらを全く満たしていなくても遺伝子変異が見つかる場合があります。
もし遺伝子変異があった場合には、乳癌と卵巣癌になりやすいと言えますので、しっかり検診をしたり、予防的に切除したり、といった治療法の選択肢があります。また、再発した場合に使えるお薬の選択肢も増えます。
遺伝子変異をどうやって調べるかというと、乳癌を発症した方の血液検査で調べることができます。もしその方に遺伝子変異があれば、血縁者の方に、同じ遺伝子変異がないか調べることもできます。
遺伝子検査を受けてみたい、どれぐらい遺伝性乳癌の可能性があるのか、話だけでも聞いてみたい、など気になることがありましたが、いつでもご相談下さい。
07. 乳がんチーム
「乳がん看護認定看護師」がチームに加わりました。
より乳がん患者さんの気持ちに寄り添うことができるよう、「乳がんチーム」がケアしていきます。
新たに結成された乳がんチームは、医師・看護師・診療放射線技師・薬剤師・ソーシャルワーカーで活動しています。乳癌と告知された瞬間から私たちチームでサポートしていきます。
経済的なこと、お子さんのこと、仕事のこと、挙児希望のこと、介護のこと・・私たちに相談してください。
新八柱台病院で乳がん治療を受けた方の会ができました。
患者さん達が「さくらんぼの会」という名前で患者会を立ち上げてくれて、年に数回の会合をもっています。
同じ病気になった方の情報交換の場としてとても好評で多くの方が会合を楽しみにしています。松戸朋友クリニック、八柱三和クリニック、三和病院と場所は移りましたが、「さくらんぼの会」も継続して活動していただいています。
2017年11月には、会発足後10周年を記念したパーティを行い、100人近い方が集まり、お祝いをしました。
しかし、とてもとても残念ながらコロナ渦にあって2020年から患者会の会合を開催できていませんでしたが、2023年5月から3年ぶりに再開することができました。
今後は今までどおり3か月毎に開催していきます。詳細はホームページでお知らせいたします。